ご相談前の状況
「自分に何かあったとき、家族に迷惑をかけたくないんです。だから、ちゃんとしておきたいです。」
そう話してくださったのは、ご家族と穏やかな日々を送っておられる高齢の女性のご依頼者様でした。すでに配偶者を亡くされ、成人されたお子様やお孫様に囲まれて、静かで安定した暮らしを続けておられました。
以前、ご主人が亡くなられた際に、遺言書があったおかげでスムーズに手続きが進んだ経験があり、「今度は私の番」と思いご相談に来られました。
ご相談後の対応
当事務所では、ご本人のご希望と家族構成を丁寧にお聞きし、以下のような内容で公正証書遺言の作成をサポートいたしました。
① ご自宅(土地・建物)は、「この家に住み継いでくれるだろう」と考えるお 子様の一人に単独で相続させる
② 預貯金や金融資産は、これまでの子供たちへの支援を考慮して配分する
③ それ以外の家財などは、家を継ぐお子様に包括的に相続させる形とし、不動産の共有を避けるかたちにする
④ 万一の場合に備え、予備的な相続指定や、遺言執行者の指名も明記
⑤ さらに、ご本人の想いを綴った付言事項を添えて、家族への感謝や配慮を言葉として遺す
遺言に込められた「家族への手紙」
今回の遺言書には、法的な記述とは別に、ご本人が自らの言葉で家族へ語りかける“付言事項”が加えられました。
そこには、こんな温かい言葉が綴られていました。
お父さんのとき、遺言書があって本当に助かりました。だから私も、残されるみんなが困らないようにと思って、この遺言を作ることにしました。
本当は2人に半分ずつあげたい。でも、将来のことを考えると、不動産は有にしないほうがいいから、自宅は1人の名義にします。
これまでも別の家族にはできる限りの支援をしてきたつもりです。それで納得してください。
これからも、家族みんなが仲良く、楽しく暮らしていってくれることが、母の願いです。
まさに、遺言書というより「家族に宛てた最期の手紙」のようでした。
当事務所からのコメント
遺言書の作成というと、「相続トラブルを防ぐための書類」というイメージがあるかもしれません。もちろんそれも大切な役割ですが、今回のように、「感謝を伝える」「想いを言葉にして遺す」という側面は、大きな意味を持ちます。
また、「平等に分けたい」という親心と、「現実的に分けるべき」という判断の狭間で揺れるお気持ちに寄り添いながら、法律と気持ちの両方をつなぐ橋渡し役として私たちはお手伝いをさせていただきました。今回の遺言は、ご本人がご家族に対して伝えたかった「ありがとう」と「安心してね」がしっかり形になった、まさに“想いの見える化”といえるものでした。
これからも当事務所は、「遺す人の想い」と「受け取る人の未来」をつなぐ、あたたかな相続支援を心がけてまいります。