ご相談前の状況
「私がいなくなった後も、子どもたちが仲良く過ごしてくれたら――それだけが、願いなんです」そうおっしゃったご依頼者様は、明るく穏やかな口調のなかに、深い思慮と愛情を込めてお話しくださいました。
お子様たちはそれぞれ独立し、家庭を持ち、それでも兄弟姉妹、仲はとても良いとのこと。しかし、残される財産が「家」や「預貯金」といった分けにくいものであるため、ほんの些細な誤解がきっかけで関係がこじれることを、心のどこかで不安に感じておられました。
「こんなこと、誰に相談したらいいのかわからなくて……」
そんな思いを抱えていたご依頼者様が、当事務所にご連絡をくださいました。
ご相談後の対応
初めての面談では、これまで誰にも話せなかった本音をぽつりぽつりとお話しくださいました。特に心を悩ませていたのは、ご自宅の不動産をどのように扱うかという点でした。
この家にはご本人だけでなく、すでに他界されたご主人との思い出も詰まっている。だからこそ、「この家をずっと大切にしてくれる人」に託したいと強く願っておられました。
結果として、同居し家の管理にも関わってくれていたご長女に不動産を相続させることを決断。さらに、家の維持にかかる費用も考慮し、ご長女には少し多めに預貯金を配分するという内容の公正証書遺言を作成しました。
それでも、他のご家族への想いも変わらず、「誰もが納得し、みんなが仲良く暮らし続けられる」という視点から、配慮を尽くした内容になりました。
遺言執行についても、「家族に余計な負担をかけたくない」とのことで、当法人を指定していただき、信頼のもとに手続きをお任せいただく形となりました。
当事務所からのコメント
今回のご相談は、家族への「ありがとう」をどう伝えるかに真正面から向き合った、まさに“愛のかたち”を表すものでした。自らの思いを整理し、子どもたちへの想いを言葉と法律で整えるというのは、簡単なようでいて実はとても勇気のいることです。
それでもご依頼者様は、丁寧に一つひとつの選択に向き合い、最終的には「これで安心して旅立てる」と、やさしい笑顔を見せてくださいました。
そして最後には、こう記されました。
「家族に恵まれ、本当に幸せな人生でした。ありがとう。」
その一言に、これまでの人生の重みと家族への深い感謝が詰まっていました。遺言とは、単なる相続の指示書ではなく、大切な人へ最期に残す、最もあたたかいお手紙なのかもしれません。